旭川出身で2022年度の旭川市文化奨励賞を受賞した写真家・谷口雅彦さんが現在、フィール旭川(1条通8=買物公園)5階の「ギャラリージュンク」で個展「CHRONICLE(クロニクル)1977-2022」を開いている。
昭和天皇大喪の礼の車列に襲撃をかける過激派グループを写した当時の「スクープ写真」
高校卒業までを旭川で過ごした後、上京して専門学校で写真家やジャーナリストの教えを受けながら、写真家・丹野章さん、細江英公さんに師事。現在は首都圏を中心に、フリーの写真家・ジャーナリストで、写真に関するプロジェクトやイベントなどを通した地域活動などで活躍。写真集発行をはじめ、多岐にわたる作品を全国誌や国内外の画廊、美術館などで発表している。
大小100点を収めた同展は、母親の笑顔から始まる。3歳の谷口さんが人生で初めて撮影した作品で、当時カメラは珍しく、借り物だったカメラを構える母親に懇願してシャッターを切らせてもらったものだといい、幼い我が子へ向けられた母親のぬくもりが写る。
ほかに、昭和天皇大喪の礼の車列に襲撃をかける過激派グループを写した当時の「スクープ写真」、芸能人の素顔を捉えたポートレート、「絵画」のように大胆に経年変化したアナログフィルムならではの風景、舞踏家などさまざまな表現者とコラボレートしたプロジェクトなどの作品が並ぶ。
谷口さんがカメラに情熱を注ぐ原点は、9歳の時にさかのぼる。それまでためた貯金で自身初のカメラ「オリンパスペン」を手にしたという谷口さんの当時のもっぱらの被写体は、家族や友達、電車や貨物車など。ある日、数日にわたって撮影したフィルムを現像して眺めていると、近所にあった旧国鉄の保線区で働く作業員を写していたことに気がついた。保線区事務所に持参したところ本人がとても喜んで、お礼に近くの駄菓子屋で谷口さんや友達にたくさんのお菓子を買ってくれたという。そのエピソードで「写真は幸せを作ってくれる」ということを小学生ながらに感じ取った。
東日本大震災後には「3.11を忘れない写真家の会」を立ち上げ、写真家有志で東北地域の復興をテーマに巡回展を継続して開き、震災10年の節目である昨年には、谷口さんが被災地に通い続けて撮影した6万枚から選んだ写真を収めたドキュメンタリー写真集「津波を乗り越えた町々 東日本大震災十年の足跡(あしあと)」を発行した。失われてしまった「大切だった日常」を痛感し、復興を遂げようと進む人々と町並みを現在も追いかける。
時代とともに写真家を取り巻く環境も変わり、今は作品だけではなくアーカイブや鑑定といった「写真よろずアドバイザー」として求められることも多く、近年は年の3分の1ほどを旭川で過ごす中、旭川の過去の貴重な写真を記録として残すアーカイブ活動などにも関わる。
谷口さんは「これまで、ご縁でさまざまなことに触れ、感じ、経験することができた。今回の写真展を通じて人がつながってくれたらうれしい。今後は、これまでの経験を旭川にも還元し、地元に貢献することができたら」と目を輝かせる。
開催時間は10時~18時。入場無料。11月30日まで。