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写真師・中鉢直綱の遺品に明治・旭川の貴重な写真 写真家・谷口雅彦さんが発見

「旭川で暮らす人々の日常や当時の旭川の様子を知る上で極めて貴重」と話す写真家・谷口雅彦さんと明治30年代の旭川の写真

「旭川で暮らす人々の日常や当時の旭川の様子を知る上で極めて貴重」と話す写真家・谷口雅彦さんと明治30年代の旭川の写真

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 旭川出身で2022年度旭川市文化奨励賞を受賞した写真家・谷口雅彦さんが、1899(明治32)年に旭川最初の写真館を開いた写真師・中鉢直綱(なかはち・なおつな)の親族から受け継いだ遺品の中から、明治30年代の貴重な旭川の写真を発見し、初公開した。

「写真帖」を初公開する写真家の谷口雅彦さん

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 フリーの写真家・ジャーナリストで、写真に関するプロジェクトやイベントの企画、日本の近現代写真の研究家としても活躍する谷口さんは、首都圏を拠点に活動しながら近年は3分の1ほどを旭川で過ごし、旭川の過去の写真を記録として残す「アーカイブ」などにも力を入れている。

 写真師・中鉢直綱は、屯田兵が入植した後の1899(明治32)年に旭川で最初の写真館となる「中鉢写真館」(現旭川市4条7)を開業し、1904(明治37)年には日露戦争に写真師・兵士として従軍。戦場の前線の様子を写真に残した。終戦後は東京・麻布で写真館を開き、その後、いとこの菊地東陽が創業した日本初の国産写真フィルム・印画紙等感光材料の製造・販売を行なう「オリエンタル写真工業」(現「サイバーグラフィックス」)の創立メンバーとなり、昭和36(1961)年に他界するまで写真業界に貢献した。当時、写真は特殊技術であったため、写真を撮る技師を写真師と呼んだ。

 谷口さんと中鉢直綱との「出会い」は20年前にさかのぼる。サイバーグラフィックスの社史編さんの外部メンバーとなった谷口さんが沿革の調査を始めたところ、創業メンバーの中に中鉢直綱の名前を見つけ、かすかに記憶のあった旭川初の写真師の苗字と同一であることに気づいた。帰旭した際に気になり調べたところ、旭川市史に「明治32年、旭川最初の写真館を写真師・中鉢直綱が開業した」という記述を見つけ、同一人物であることを確信したという。

 中鉢直綱の子孫が関東で暮らしているはず、と推測した谷口さんは独自調査を開始。しかし、国立国会図書館などへ足を運ぶも手がかりにたどり着くことができず、その後も一向に進展がないまま月日が流れた。

 昨秋、谷口さんは、自身の活動で「大日本帝国陸軍第七師団」(現在の「陸上自衛隊旭川駐屯地」)の建物の建設写真を独自に入手。すると、撮影者が「中鉢孝」となっており、何か関連があるのではと手がかりを求めて、今春、「北鎮記念館」(旭川市春光町)を訪れたところ、孝さんとの関連は不明ながら、直綱さんの10歳下の弟で軍人だった正綱(まさつな)さんの子である誠さん一家の所在が判明した。

 誠さんは数年前に他界していたが、誠さんの妻・鈴子さんに連絡を取ると、親族では価値が分からず開けずにいたという誠さんの遺品の存在が判明。自身が旭川出身であることや研究へ懸ける情熱を伝えたところ、「主人が聞いたら喜ぶ。研究を継承してほしい」と鈴子さんから思いを託され、段ボール3箱分の遺品を預かった。遺品の中には、誠さんが慕っていた伯父・直綱さんとの晩年までの交流を、写真を交えながらまとめた資料「鎮魂直綱伯父」が見つかり、谷口さんが直綱さんの人物像を理解するのに大いに役立ったという。

 同月、谷口さんが段ボールを旭川に持ち帰り調査を始めたところ、多くの家族・親族写真アルバムに紛れて、一冊の「写真帖」を発見。収められた40枚ほどの写真は、120年前の明治30年代の旭川や日露戦争のもので、当時の「師団通」(現在の「平和通・買物公園」)の様子や写真館前に設置したカメラの前を偶然通りかかったような庶民の姿などが写っており、谷口さんは「まさかビンテージプリントが見つかるとは思わず、驚いた」と、20年探し続けたものに出合えた感慨と興奮を覚えたという。

 谷口さんによると、「近代日本史は幕末から明治30年頃までの期間を対象として研究されており、港で貿易が行われ街の開発が進んでいた札幌、函館、小樽には多くの資料が残っているが、政府の「計画都市」として作られた旭川は、街ができたのが明治30年以降。研究対象外の時期にあり、そのころの写真はほとんど発掘、研究されていない。今回発見した写真は、旭川で暮らす人々の日常や当時の旭川の様子を知る上で大きな手がかりになり極めて貴重」だという。 

 谷口さんは、「自分は断続的にも45年間旭川の記録写真を撮ってきたが、それより古いものは自分ではどうすることもできず、市民の協力でアーカイブしている。現在は預かった段ボール3箱分の資料の精査を進めているが、大先輩である中鉢直綱さんの人生と残された写真・資料の研究を続け、今後はその成果を何らかの形で発表していきたい。今回の『写真帖』の発見はその第一歩」と位置づけ、今後に向けて意気込む。

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